○再度警告です。親韓派の人は、読まない方が幸せに暮らせます。以下を読んで不快になった場合は、自らの責任で不快を選んだとみなします。 |
何でもない天気というものは表現に戸惑う。表記的に“何でもない”が平穏で事も無しな状況を指すのか、はたまた主観に準じて慣れ親しんでいる天蓋を指すのか、一般的イメージに沿って晴れと呼ばれる気象状況に限定しても雲一つ無いのかぽっかりとコッペパン輪郭の白い塊の一つ浮かぶを指すのか……。高名な詩人をして、本当の空が東京には無いと言って驚かせた妻の話がある。平凡ということを万人に納得させうる共通性で具体的に示すことは、意外と難しいのである。 そんな普通の空の下、どこにでもあるあどけない話である。 「香里〜、わたしパソコン買ったんだよ」 「へーそうなの」 発言者の期待を満たしたのは、応答者の最初の一音だけだった。文字にしてたった6つの間でも、開始時と終了時とでは感情の高低差が著しい。美坂香里は手に持った鯛焼きの端を囓りながら、興味無さげに生返事をした。この鯛焼きのあんこは香里にとっては少し甘めだ。まずは皮と餡を適度に混在させて食み、舌を慣らしてからでないと咳き込む結果となる。奢って貰ったものであるから贅沢は言わないけど、食べる作法くらいは自由にしたい。だから香里は神経を隣の親友にではなく自分の口元に集中させていた。 その無感動な反応に、水瀬名雪は僅かな不満を覚える。 「うー香里ぃ。そういう時はもっと驚くとか興味持つとかするべきだと思うよ」 「お小遣いはたいて買ったのね」 「えっ、どうして判るの?」 そりゃあ……判るわよ。香里は苦笑に区分される表情に顔の筋肉を調節する代わりに、小さく溜息をついた。もちろん相手は小馬鹿にされたと受け取るだろう。だが、これでより会話が進むと推測されるのだから、それで良いのではないのか。 「むー香里がそんなだったら、触らせてあげないっ」 そら来た。香里は心の中でほくそ笑む。ただし表情その他の露出部分は変更無しのそのままで。 「で、相沢君は役に立たなかったのね」 「わ、わたしまだ何も言ってないよ〜」 言わなくても推測だけで理解可能だ。男の子が、それも香里の知っている相沢祐一であれば、同居人の新しいホビーに頓着しないわけがない。さらに香里の記憶にある彼の行動パターンを類推すれば、自ずから答えは見えてくる。 「滅茶苦茶なの?」 「え? あ、うん。祐一ったら酷いんだよ。電気屋さんから届いた途端にわたしから取り上げて、解説書も読まずに勝手にいじくり回して……あ、わたしは止めたんだよ。でも全然聞き入れないし、最後には「あっ」とか「うーむ」とか言って考え込んだ後に「じゃあ返す」ってわたしに押しつけて、後は知らぬ存ぜぬだし〜」 香里は破顔を食い止めるのだけで懸命だった。状況が鮮明なまでに脳裏に浮かぶ。おそらく昨晩の名雪は、小都市の電話帳ほどもある解説書と格闘しながら、途中で力尽きて寝込んでしまったことだろう。どちらもパソコン初心者にありがちな行為だ。 「でね、でね、香里、今日これから何もなかったら……」 「鯛焼き一つで買収? あたしも安い女だわね」 「あっ、わたしの分も食べていいよ!」 もう半分無くなっている鯛焼きの頭の方を、慌てて香里に向かって差し出す。名雪の歯形の付いた鯛焼きなど、彼女に気のある男子生徒には価値のあるモノになるであろうが、同性の香里にとっては余分なだけだ。 「まぁいいわよ。暇と言うほどでもないけど忙しくもないし」 「ありがと〜さすがは香里だよ〜」 抱きついてくる名雪は半分涙目だ。相沢君に蹂躙されたパソコンがどれほどの惨状なのか……想像するだけでも滅入る香里であった。 |
第一話・古代編 |
「はい、これで良いんじゃないかしら」 「ありがと〜さすがは香里だよ〜」 数時間前に聞いたような台詞をもう一度言っている。香里は液晶画面をくるりと回転させて、本来の持ち主に向けてやった。 「うわっすごーい。本当はこんなに綺麗な画面なんだねっ」 「綺麗って言うか……」 最初が酷かっただけだ。起動からしてFDDやHDDがガコガコと不穏な動作をしていたし、操作可能になるまでやたら時間が掛かったし、モニター上は意味不明なショートカットで埋め尽くされていた。一目見ただけで改善と整理を断念した香里は、無言でリカバリーディスクを挿入して初期化した。ただそれだけだ。 名雪が購入したのはどこにでもありがちなノートパソコンだった。既製品だからリカバリーのCD−ROMを差し込んで再起動すれば全自動で工場出荷設定に戻してくれる。これが随分使い込んでデータが累積していたのであれば一大事だが、昨日買ったばかりならば問題はない。一応サービスで最後にデフラグをして、香里は座椅子の背もたれに身を投げ出した。 「これからは相沢君には触らせないようにする事ね」 「うん。そうしたいけど……」 「勝手に弄る?」 「多分。ダメって言っても絶対無理矢理触ると思う」 まぁそうだろう。かつて画面を埋め尽くしていたショートカットのプロパティを観るとinternetに直結する設定がされていて、URLからいかがわしいWEBサイトであることが推測された。Q2にプロバイダを変更させるソフトも裏でインストールされている。javaスクリプトでレジストリすら浸食されていた形跡がある。よほど危険なsiteを巡回したのだろう。「ったく男って」と軽蔑の一つもしたくなる。 「勝手に弄られても良いように、管理者登録をしておいた方がいいわね」 「? 管理者?」 「管理者つまりadministratorっていうのは……まぁ難しいこと考えなくても良いわ。簡単に言えば、名雪はこのパソコンを自由に弄れるけど、他の人は勝手に重要な設定を変更出来ないようにするの」 「祐一は使えないって事?」 「相沢君でも誰でも使えるけど、出来ることに制限を付けているの」 「うーん……よく分かんないけど、祐一も私も使えて、故障しなければそれでいいよ」 また“ありがと”と言う名雪は安堵を込めた感謝を香里に惜しみなく降り注いだ。本当は起動自体にパスワードを設定して名雪以外には操作出来ないようにするのがベストだろうが、それだとパソコン自体を祐一に取り上げられかねない。だから香里は“妙にマセている悪戯小僧が勝手にいじくり回す”前提の、ベターな設定を推奨したのだ。 「さて、まずはこの機の名前からね」 香里は名雪の方を観ながら液晶モニターの上の角をチョコンとつついた。 「名前?」 「そう。何でもいいわよ」 「じゃあ、けろぴー2号!」 即答だった。 「……まぁいいけど。本当にそれでいいの?」 「うん。実はもう飾りも用意してあるんだよっ」 と言って問答無用で液晶背面部にベタリと大きなシールを貼り付けた。香里が止める暇もなかった。見るからに強力そうな粘着材が、合成樹脂の背面とプリントされたビニールを繋いでいる。お目々ぱっちりの1号とは違って、飼い主に似た眠そうな半眼がポイントらしい。 「名雪……あんた、このパソコンを売る時どうするの?」 「売るなんてそんな酷いこと出来ないよー。けろぴー2号はずっとわたしと一緒なのっ」 ……液晶が耐久を越えたりHDDが破損したりするまで使い倒すつもりらしい。昨今のパソコンの進化速度からすると、最新機種でも2年で時代遅れの骨董品に転落するものなのだが。まぁユーザー本人がそれで満足ならば干渉する義務もないけど。香里はそう考えを落ち着けて、機名登録に『けろぴー2号』と打ち込んだ。 「で、このけろぴーで何をするつもりなの?」 今さらだが香里は、画面に見入ってご満悦の名雪に尋ねた。けろぴー2号のご主人様は、30分前に香里がインストールしてやったけろぴーのスクリーンセーバーを飽きもせずずっと眺めてニヤニヤしている。設定終了後に確認のため細かいマニュアルを観ていた香里もそろそろ飽きた。 「あ、うん。インターネットでもしようと思って」 「ネット? あんたが?」 「うん。祐一がね、今時そのくらい出来ないとダメだって馬鹿にするから」 「……まんまと策略にはまったワケね」 「?」 未だに事の次第を理解出来ていない当事者に、香里は哀れみの視線を投げかけるのだった。考えてみれば、ITとか先端技術とかが生計の営みに入り込む必要のない名雪が私有財産貯蓄の多くを崩してまでパソコンなど買うはずがないのである。このままだとけろぴー2号の寿命のほとんどは、名雪の同居人の浅ましい活動のために消費されてしまうであろう。香里は、もう一段階GUESTユーザーの設定を厳しくしておいた。 「名雪、インターネットはいいけど、具体的にどんな使い方をする気なの?」 「えーと、イチゴ情報とかの検索? とか?」 「……他には?」 「あ、遠く離れた人とお話が出来るって祐一が言ってた」 「チャットの事かしら?」 「うーん、よく分かんないけど外国の人とも話せるんだって」 「ああ、翻訳チャットや掲示板の事ね」 香里は、イチゴ情報検索の方法を教えるついでにgoogleで外国との翻訳掲示板を探してみた。かなり多いヒットがされるが、そのほとんどは同じ文字を表示している。 「korea? 朝鮮のこと?」 「正確には韓国ね。翻訳掲示板って、日韓が多いのね。あたしも初めて知ったわ」 他にも探してみるがやはりjapan-koreaが圧倒的だ。予想していたような英語での翻訳掲示板は意外に少ない。理由は簡単で、朝鮮語と日本語は英語などと比較して文法的配列が似ているのだ。また単語自体が同じ和製朝鮮語も多く、翻訳エンジンの性能も精度が高い。 「ねね、香里、韓国の人と話してみようよ。韓国のイチゴってどんなカナ? どんなカナ?」 同じだと思うけど……そう言いたいのを飲み込んで香里は検索先のサイトに接続した。横で名雪が瞳を輝かせて待ちわびている。 「登録が必要みたいよ。どうする?」 「してして!」 「ハンドルは……名前はどうするの?」 「えと、名雪でいいんじゃないの?」 「本名そのままハンドルって止めた方がいいけど……まぁ韓国人相手なら構わないわね」 香里は気楽に“nayuki”と入力する。国内で本名でチャットをするのはプライバシーの安全の点で自殺行為であるが、海を越えた相手と会話するには危険は無いであろう。とりあえず最低限の情報だけを打ち込んで入会を完了させた。 「完了したわよ。後は名雪がやりなさい。あたしは国際イチゴ談義なんて出来ないから」 「うん、ありがと」 そそくさと場所を空ける香里と入れ替わり、過大にウキウキしている名雪がモニター正面に座る。早速右手をマウスかけてキーボードに左人差し指を構えるが……。 「あの、香里、それでどうすればいいの?」 「そこ、クリック」 「あ、カチッと」 名雪でもクリックくらいは知っているようだ。しかしマウスの操作にすらなれていなくて、ポインタをラジオボタンに合わせるのにすら苦労している。香里はもう帰宅しようと身支度をしていたのだが、初めてwebの大海に漕ぎ出した名雪のあまりの頼りなさに憐憫の溜息が出る。 「ね、ね、香里、ここでいいの? ここでいいの?」 「はいはい。いいわよ。もうしょうがないわね」 仕方ないというか保護責任を感じたというか、モニターにくっつかんばかりに顔を寄せている名雪が危なっかしく思えて、香里はそこらかしこにある目覚まし時計で時刻を確認してから名雪の隣に座り直した。 「えとえと、じゃあ言葉を入力するね」 「どうぞ」 「“は・じ・め・ま・し・て・。”“イ・チ・ゴ・と・け・ろ・ぴ・ー・に・つ・い・て・は・な・し・ま・しょ・う・。”……こ、これでいい?」 「……いいんじゃない? 名雪らしくて」 こんな話題に食いついてくる暇人が居るとは思えないけど……香里は呆れて脱力し、頬杖を付いた。でも開始はこの程度で良いかもしれない。最初からヘビーな会話は初心者には無理であろう。多人数にすごい早さで話しかけられたら、名雪のような未経験者は混乱するだけだ。 名雪は指一本でそれだけ入力し終えると、そのままじっとモニターを見つめ続けた。 「……」 「……」 「……」 「……」 「お返事、来ないね」 「変換していないわよ」 「え? へ、変換?」 「入力した平仮名のままじゃ送信出来ないわよ」 「あの、えと、こ、これかな?」 カタ 「わ、漢字になった。すごいね」 「それでいいわ」 「うん」 「……」 「……」 「……」 「……」 「送信しないの?」 「え? そ、送信?」 「入力しただけじゃダメでしょ」 「そ、そうだね。お手紙でも書いただけじゃダメだよねっ。切手を貼って出さないと」 香里は少し疲れてきた。いつもボケ気味の名雪ではあるが、今は特に呆けている。そんな香里の気配を察知して名雪も少しは慌てるが、ポインタをうろうろと動かすだけで要領を得ない。仕方なく香里はマウスを握っている名雪の手の上に自らの手を重ね、『送信』ボタンの上に置いてクリックしてやる。 *日:nayuki<はじめまして。苺とけろぴーについて話しましょう。 「あ! 出た! 出たよ香里!」 「そうね」 ピコッと音がして、打ち込んで送信した文章が掲示板にそのまま表示される。それを見て、感動で打ち震えている名雪と冷静に落ち着いている香里が対照的だ。 「まだカナっ。お返事まだカナっ」 「落ち着きなさいって。そんなに早く来るわけが……」 ピコッ 「あ、来た!」 「意外と早いわね」 *韓:hse220<けろぴーというのは韓国のけろぴーのことか? 「……韓国のけろぴー? 香里、けろぴーって韓国のキャラクターなの?」 「あたしが知ってるはず無いわよ。でもけろぴーってサンレオって会社だったわよね。あれって日本だったはずだけど」 「うーん、この韓国の人に聞き直してもいいかな?」 「あたしに了承を得なくてもいいわよ」 *日:nayuki<けろぴーは日本の会社ですが *韓:hse220<けろぴーは韓国のキャラクターだ! 「ええっ? そうだったの? わたし知らなかったよ」 「変ね。開発会社が日本なんだから、キャラクターだって日本のはずよ」 「う〜ん……あ、判った! きっとけろぴーの韓国特別バージョンがあるんだね!」 「……」 香里は怪訝に「そうかしら?」と言いたげな表情を作る。名雪の結論は、名雪の性格そのものの好意的解釈だ。相手の韓国人の攻撃的文体とは乖離が著しい。 「韓国のけろぴーってどんなかな。聞くのが楽しみだよー」 *日:nayuki<韓国versionのけろぴーってどのようなものですか? 韓国にも日本のけろぴーを知っている人が居て嬉しいです。 「これってけろぴーによる国際友好だよねっ。けろぴーすごいっ」 名雪は既に日韓けろぴー交流会に夢を馳せていた。けろぴー友好大使・水瀬名雪、苺けろぴーを韓国のけろぴーファンに贈呈……なんて空想がニューロンを駆け回る。 *韓:hse220<けろぴーは韓国起源だ! チョッパリは捏造するな! 「えっ……?」 名雪は先程までの満面の笑顔のままで硬直した。けろぴーが韓国産? 今までけろぴーマニアを密かに自称し、けろぴーの事ならばなんでも鑑定団の鑑定審査員にも劣らないとまで自負していた名雪にとって、青天の霹靂であった。 「そうなの香里?」 「だからあたしは知らないわよ」 「あの、それに“チョッパリ”って何?」 「さぁ? 検索したら?」 「検索?」 「最初に“翻訳”で検索siteを使ったでしょ」 香里は名雪の背後からマウスとキーボードを取り、ウインドゥを新規に開いてgoogleに接続する。そして文字をcopyすると貼り付けて検索ボタンをクリックした。 #“チョッパリ”:韓国のスラング。本来は『豚の蹄』の意味であり、日本人への蔑称のこと。日本の足袋が豚の足先に似ているので、日本人は豚という意味も含めて使われ始めた。 「……」 「……」 「悪口だったんだね」 「そうらしいわね」 「でも豚さんなんて可愛い」 「まぁそれほど怒る気にはならないわねぇ」 モニターの前の二人は複雑な表情をしていた。どうやら相手は酷く攻撃的だ。しかしその矛先は名雪達から大きく逸れていて、堪忍袋の急所を突き通すには至っていない。 「この韓国の人、怒っているみたいだけど、どうしよう〜」 「どうしようって、どうするのよ。あたしは知らないわよ」 「そんなぁ……」 名雪は、何か考えてキーボードに指を運び、押す寸前で戻し、また考え込んで指を動かし引っ込めて……の反復をしていた。画面の光が僅かに映える頬は苦悶が浮かんでいる。香里は仕方なく助言をしてやることにした。それに、これ以上チャットの相手を待たせるのもマナー違反だ。 「ほら、まずは返答しなさい」 「う、うん」 *日:nayuki<けろぴーが韓国起源とは知りませんでした。 波風立たない差し障りのない返事だ。名雪らしい。香里はその間にgoogleを開いていた別のウインドゥで検索を並行して行う。キーは“けろぴー”“サンレオ”“韓国”だ。 #:韓国の文具会社が日本のキャラクター企業サンレオにキャラクターの無断使用で提訴される。しかし韓国の会社は「サンレオが逆に盗作した」と開き直り、サンレオキャラクターは韓国起源と主張している。 #:裁判の結果、ソウル高等法院民事4部は、原審どおり原告勝訴の判決を下した。また「被告は去る1976年に"けろぴー"という名前とキャラクターを商標として登録したと主張しているが、その後20年間余りも商標を使用せず、韓国で原告の商標として有名になった1999年になって初めてこの商標を使用した」と付け加えた。 「……」 「……」 「え〜と、つまり……」 「これを知らないだけじゃないの?」 「う、うん、きっとそうだね。教えてあげれば判ってくれるよね」 名雪は、香里に指示された通りにurlをcopy&pasteし、内容を日本語で付け加えた。 *日:nayuki<すみませんが、貴方の誤解のようです。韓国でも次のようになっているみたいですよ。http://www.chizai.jp/asiapt/20021211_2_J.html 「こ、これでいいかな?」 「そうね。つまらない誤解ってところでしょ」 「香里、ありがとね。さて、それじゃあ本格的に韓国の人とけろぴーの魅力について話すよ〜」 香里は「はいはい、お好きなように」と言葉を投げて姿勢を崩す。後は名雪にチャット及びパソコン自体の終了方法を教えれば一通り完了だろう。一応正確かどうか確認するために、マニュアルを手に取ろうとした。その時…… 「え……」 カチーンと擬音でも出そうなほどに名雪が硬直した。怪訝に感じて香里もモニターを覗き込む。 *韓:hse220<捏造だ! 「捏造って……」 「さっきの発言、ちゃんとurlも示してあるわよね」 「うん、ほら」 名雪の示した文字、つまり先程の発言にはしっかりとlinkが掲示されている。一応クリックしてみたが、やはり引用先に正確にジャンプできる。 *韓:hse220<日本は嘘ばかりだ! けろぴーは韓国のキャラクターだと世界中が認めている! *韓:hse220<日本は裁判所を買収して裁判官を脅した! 汚い奴! *韓:hse220<日本は歴史教科書でも捏造と歪曲ばかりして国際的に非難されている! だから日本には友好国が無くて独りぼっちだ! 「う……そ、そうだったんだ。日本がそんな酷いことを……」 怒濤に追加されていく連続投稿の激しさに、名雪は姿勢までもが後退している。モニターから逃げるように顔を離すと、両手の拳を胸に当ててイヤイヤをした。 「日本は韓国からけろぴーを取っちゃったんだね。ううっ、ごめんねけろぴー。わたしが代表して韓国の人に謝るよ」 名雪は悲壮な面持ちでキーボードに謝罪の言葉を打ち込もうとした。しかしその時…… 「名雪、あんたね、この程度のディベートに負けないでよ」 「え?」 名雪が斜め後ろを振り返ると、呆れたように自分を見ている香里の顔があった。 「いい? 裁判では韓国司法も日本の正当性を認めているし、第一けろぴーが韓国起源だと認めている国ってどこよ?」 「だ、だって世界中が言っているって……」 「だから、その世界中って具体的にどこなのよ」 「え? えと……どこだろ?」 考え込む名雪に、香里は溜息を漏らす。 「落ち着いて考えなさい。“世界中”だの“国際的”だのっていう大きな嘘には騙されやすいのよ。ナチスドイツだって同じようなことを言っているんだから」 「で、でも、この韓国の人は怒っているよ。こんなに怒るんだから本当のことを言っているんだよ」 「だったら聞いてみたら?」 「聞く?」 「そう。“けろぴーは韓国起源”として商標登録している具体的な外国を、この韓国人に尋ねればいいじゃない」 「う、うん」 *日:nayuki<申し訳有りません。お聞きしたいのですが、けろぴーが韓国起源だと認めている国とは、具体的にどこなのでしょうか? 「……」 「……」 入力してしばらく待ったが返事が来ない。 「どうしたのかな?」 「そうねぇ。もう少し待ってみたら? 回線が混んでいるだけかもしれないし」 「うん。韓国の人も判ってくれて気持ちを落ち着けているんだよ、きっと」 あくまで名雪は好意的だ。しかし1分ほど待った時、画面上に劇的な変化が起こった。 *韓:hse220<くそチョッパリ! *韓:hse220<そうやってお前達は我が国から収奪したんだ! *韓:hse220<世界中がお前達の汚い悪事を知っている! *韓:hse220<イルボンは世界中の嫌われ者! *韓:hse220<我が国がお前達倭寇にどれだけ苦しめられたのか知っているのか! *韓:hse220<日本人は全て泥棒だ! *韓:hse220<島国根性で自分たちの利益ばかり貪る利己主義者! *韓:hse220<日帝は世界最悪の強盗だと世界中が非難している! *韓:hse220<もう一度核兵器を落としてやろうかこの野郎! *韓:hse220<世界最強北朝鮮軍と我が韓国軍が、金満日本に正義の鉄槌を下す! *韓:hse220<日本は古代史も捏造! fujimuraは日本人の象徴だ! *韓:hse220<日本は古代史から全て捏造している! 日本は無い! 現代日本も全て捏造一色だ! カチーーーーーーーーーーーーーーン 頭の天辺から爪先まで名雪は硬直した。呆然とする彼女を後目に怒濤の罵倒が画面を埋め尽くしていく。 「か、香里〜」 「酷く極端な一般化ね。どうして古代史の捏造事件とけろぴー裁判が関係あるのかしら」 「で、でもやっぱり日本は悪いことしたんだから、素直に謝るべきだよ〜」 あたふたウロウロきょろきょろオロオロと名雪は手を虚ろに漂わせたりモニターに向かって頭を下げたり突然立ち上がって徘徊してみたりと挙動不審に混乱している。 *韓:hse220<中国も韓国も日本の教科書の古代史の捏造を非難している! 「ね、ねぇ香里〜ここは謝ろうよ〜」 「謝るって言っても、何に対して謝ったらいいのか判らないわ」 「でも〜」 「こう言う時は下手に繕うよりも、何が悪かったのかをはっきりさせた方がいいと思うわ」 「そ、そうだよね」 名雪は何とか気持ちを持ち直して、入力欄に遠慮がちな返答を打ち込んでいった。 *日:nayuki<ごめんなさい。日本は何が悪かったのか教えてください。 *韓:hse220<全部だ! 「ぜ、全部だって〜。どうしよう〜」 「もっと限定してもらわないと、謝りようがないわよ」 *日:nayuki<古代史のどんなところが悪かったのでしょうか? *韓:hse220<捏造教科書ばかり見ているからそんなことも知らないんだクソ日本人! 「う〜やっぱり日本が悪いのかな〜。歪曲しているのかな〜」 「それを聞くための日韓掲示板でしょ」 *日:nayuki<すいませんが、もっと具体的に教えてください。 *韓:hse220<無識なウェノムに教えてやる! 任那日本府なんて捏造だ! 世界中の歴史家は日本の捏造に呆れている! 「ウェノムって?」 「文脈から推測すると“日本人”って意味らしいわね」 正確には“倭奴”。当然のごとく罵倒用語である。発音から受ける印象では不快感が無いので、言われても怒るに値しないが。 「それにしても任那日本府が捏造だったなんて知らなかったよ〜。わたし、ずっと本当だと思っていたのに」 名雪の声の張りがまた一段と弱くなる。日本の古代史において百済との関係は基本中の基本だ。それ自体が否定されたとなると、日本古代史のほとんどが嘘だと言うことになる。 「……変だわね」 「え? 変って?」 落ち込んでいる名雪と違って、香里の方は思考を乱していない。顎に手を当てて軽く記憶を掘り出しているようだった。 「名雪、もっと詳しく質問してみて」 「それより早く謝った方が……」 「だから、何に対して謝るのか、全然判らないでしょ」 「う、うん。そうだね」 *日:nayuki<任那日本府のどういうところが間違っていたのでしょうか? *韓:hse220<恥知らず! 韓民族が倭国などに劣っているはずがないからだ! 常識だ馬鹿め 「……理由はそれだけ?」 香里の瞳に僅かに炎が点る。何かに少しスイッチが入ったようだ。 「名雪、これからあたしの言う通りに打ち込んで」 「え? か、香里、謝らないとダメだよ〜」 「はっきりしたらいくらでも謝ってあげるわよ」 香里は、消極的な名雪の尻を叩いて入力させる。 *日:nayuki<百済と倭国の関係はどうなのですか? *韓:hse220<倭国は百済の属国だ! *日:nayuki<それはどのような根拠なのでしょうか? *韓:hse220<根拠だと? クハハハハハ! チョッパリは及んだな! 文化大国の韓国が、野蛮な倭国を支配していたのは常識だ! 「ええっ、そうだったの? わたし、そんなこと知らなかったよ」 「あたしだって知らないわね」 「大変だよ〜。日本の教育は反省しないといけないよ〜」 「落ち着きなさい名雪、この韓国人は何も根拠を言っていないわ。単に推測をしているだけよ」 「でも朝鮮のことを韓国人が言っているんだから、間違っているはずがないよ〜」 「だから落ち着きなさいって。今、韓国人が言っているのは、日本の事よ。百済が日本を支配していたって言っているんだから」 「あ、そうだね」 「とにかく、あたしの言う通りにもう一度入力して」 *日:nayuki<もう一度お聞きしたいのですが、百済が日本を支配していたというのは何に基づいた説なのですか? *韓:hse220<韓国の教科書だ! 「……」 「……」 「えと……あの……」 「何よこの韓国人は。つまり韓国の教科書は絶対正しくて、日本の教科書は絶対間違っているって、根拠も無く主張しているだけじゃない」 「そうらしいね」 *日:nayuki<その韓国教科書は、何を元に書かれているのですか? *韓:hse220<そんなことは常識だ! いちいち言う必要もない! 「……常識って……」 「日本人の知らない常識ね。あたしの記憶が正しければ、『日本書紀』には百済が倭国に人質や朝貢を差し出したことはあっても、倭国が百済に支配されたことなんて無いはずだけど」 「あ、きっと韓国には日本の知らない記録がたくさんあるんだよ!」 「そうかしら?」 「そうだよ〜。絶対そうだよっ! 日韓掲示板ってこういうことのためにあるんだねっ。インターネットってすごい!」 「じゃあ聞いてみましょうか」 「うんっ!」 何やら名雪は開眼してしまったようだ。重そうだった指は、羽でも生えたかのようにウキウキと軽く動く。 *日:nayuki<きっと韓国には貴重な記録がたくさんあるのですね。百済と日本の関係が書いてあるのは、どんな歴史書ですか? *韓:hse220<教科書だ! 「……」 「……」 *日:nayuki<教科書は判りました。韓国教科書の記述は何を参照にして書かれたのですか? *韓:hse220<我が国の教科書を疑うのか? 無識で恥知らずなチョッパリ! 「そう言われても〜」 名雪の精神は再び袋小路に入ってしまった。どうにも円滑な会話が循環されない。アワアワな名雪に、香里は指示を続ける。 「名雪、日本史を思い出しなさい。百済と日本の関係が書いてあるのは何?」 「えと『日本書紀』?」 「そうよ。それと『続日本紀』。さらに『広開土大王石碑文』や中国の『宋書』(倭国伝)や『隋書』(倭国伝)よ」 「わたし、知らない……」 「まぁそんなことまで普通は詳しく教えないからね。でもそれらは全て“百済と倭国の力関係は、倭国の方が上”としていたはずよ。文化は百済の方が進んでいたけど、物資や軍事力は倭国の方が勝っていた。だから倭国は半島に渡って新羅とも戦った」 「あ、そうそう。そうだったね〜」 *日:nayuki<日本で知られている史料では、百済が倭国より強かったという記録はありません。 *韓:hse220<クハハハハ! 歪曲教科書ばかり見ているからそうなるのだ! 「……やっぱり日本の間違い?」 「だから、それを確認するんでしょ?」 「……うん」 *日:nayuki<ところで具体的に日本の何という教科書のどの部分を指しているのでしょうか? *韓:hse220<全部だ! 倭国の教科書なんて歪曲に決まっている! *日:nayuki<あの……日本の教科書を読んだことはありますか? *韓:hse220<捏造教科書なんて読む必要は無い! 「……」 「……」 「……読んでないのにどうして間違っているって分かるのかな〜」 「名雪、もういいから次に話を移った方が良いわよ」 名雪も香里も目の前の景色が歪んだような錯覚に遭っていた。全てが日本人の常識から外れた……そう、予想を越えてさらに斜めに方向が曲がっている。どこをどう思考したらこんな認識が生まれてくるのか、二人には到底推測不能だった。常人の範疇を越えている。 *日:nayuki<韓国教科書以外で、百済が日本に進出したと書いてある資料は何ですか? *韓:hse220<『三国史記』だ! 「『三国史記』?」 「朝鮮の歴史書ね」 「香里すごーい! さすがは学年トップだよ〜」 「それがあたしとあんたの間にある、越えられない壁ね」 「ひ、ひどいよ〜」 「冗談よ。それより『三国史記』の記述は……」 *日:nayuki<『三国史記』には、新羅と倭国が戦った記述はありますが、百済が日本に進出した記述はなかったはずですが? *韓:hse220<嘘だ! あるはずだ! *日:nayuki<ありませんよ。逆に、百済が日本に貢ぎ物を送ったことは書いてありますけど。 *韓:hse220<捏造だ! 文化大国の韓国が倭国に朝貢などするはずがない! 百済は日本に文化を教えてやった! *日:nayuki<それは全部『日本書紀』にだけ書いてあることです。 *韓:hse220<そうだ! 『日本書紀』が証拠だ! *日:nayuki<でも『日本書紀』には、百済が倭国に人質を送ったことや朝貢したことが書いてあります。 *韓:hse220<『日本書紀』はfantasy小説だ! 世界中の誰も信用していない! 「……」 名雪は混乱していた。韓国人の言うことが論理的に認識出来ない。救いを求めて隣にいる親友に目を向ける。 「香里ぃ、ちょっと聞きたいんだけどぉ」 「いいわよ。言ってみなさい」 「百済と日本の関係が書いてあるのって、『日本書紀』だよね?」 「そうよ」 「百済が日本に文化を伝えたって書いてあるのも『日本書紀』だよね?」 「そうよ。加えて言うと、『日本書紀』“だけ”ね」 「うん。それで『日本書紀』には百済の王子が倭国に人質を差し出したって書いてあるんだよね?」 「その通りよ」 加えて言うと、半島の歴史書である『三国史記』にも“百済が太子を倭に送った”と書かれている。倭国は新羅にまで軍隊を派兵するほどに航海術は発達し交流もあったのに天皇家の人間が百済に行ったことがない事からも明らかなように、国力は倭国の方が上であった。 「百済は倭国の属国状態だったって事だよね?」 「そうね。王子を人質に差し出す宗主国なんて聞いたことがないわ」 「まとめると、百済は倭国に文化を輸出して、代わりに倭国は百済に兵隊さんを送ったって事だよね?」 「正解ね。それが任那日本府の根拠よ。ただ具体的な領地や建物を指すのではなく、軍隊の支配地域や移動司令部または大使館的機能が事実として近いんじゃないかしら」 「でも韓国の人は、“百済が日本に文化を伝えてやった”というのは本当だけど、“百済が日本に人質を送った”ってことは嘘だって言っているの?」 「そうらしいわね」 「『日本書紀』は嘘つきな本だけど、百済が倭国に文化を教えたことだけは本当だってこと?」 「その韓国人は、そう言っているわね」 「何の根拠も証拠も無いけど“半島の方が偉いから、百済と倭国が関係していたならば絶対百済が倭国を支配していたに違いない”と言っているって事?」 「らしいわね」 「そ、そんな都合の良い解釈は勝手すぎるよ〜」 実は半島南部には百済時代の古墳があり、それが日本の前方後円墳の影響を強く受けていることは韓国歴史学会でもまともな学者は知っていることである。つまり百済が倭国の文化的影響も強く受けているのは明白なのだが、その古墳の存在自体が一般には隠蔽されている。しかも逆に「前方後円墳の起源は半島」などと事実を逆に曲解しているのだから始末が悪い。 さらに韓国国定歴史教科書では4ページも使って『百済が……新羅が……高句麗が……○○を日本に教えてやった』と恩着せがましく書かれている。しかも漢字を伝えたとか日本の自慢である法隆寺の壁画は韓国人が描いたとか、明らかに間違ったことも史実として堂々と教えているのだ(中国の宋書には西暦487年に倭国から漢字を使った文書が送られてきたことが書かれているし、法隆寺の壁画と半島人(曇徴)は年代に差があって描けるはずがない)。また日本が中国から直接学んだことさえ「全て半島経由」としているのだ。例えば雅楽も『高麗音楽が日本音楽の主流になった』と書いているが、雅楽には日本固有の国風歌舞と大陸の楽舞そして歌物の3つがあり、大陸楽舞で現存する楽曲は唐楽6調子約90曲と高麗楽3調子約15曲である。つまり高麗音楽は大陸楽舞の中でも少数であり、雅楽全体の中ではほんの一部にすぎない。韓国教科書の記述は誇大な半島賛美と日本文化侮蔑の歪曲なのである。 このような韓国に都合の良い記述と歪曲で、この教科書で学んでいる韓国人は『日本文化の中で高度なものは全て半島が教えてやった(日本古来の文化は下品なものばかり)』『半島に現存していないもので、日本にある高度な文化は、全て日本が半島から奪っていった』という奇妙な思考に染まることになる。 *韓:hse220<日本は古代から捏造国家! 謝罪しろ! 反省しろ! 「香里〜どうしよう〜?」 はぁ……と溜息が出る。香里はもう、この頭痛がする交信から一刻も早く離れたかった。 「適当に謝っておいたら? どうせこの人は聞く耳持ちそうもないし」 「そうだね。今日はこのくらいで……」 二人とも事なかれで終結を了承する。とにかく先に平身して相手を落ち着かせるのは日本的な行為だ。名雪はたどたどしくも急いで謝罪の言葉を入力する。しかしその時…… *韓:hse220<このくそ病身! 「病身? 何のことかな〜?」 「何かしらね。検索したら?」 「うん。ええと“韓国”“病身”と」 名雪は香里がしたことを見よう見まねで検索を開始した。 #韓国では障害者のことを“病身”と呼んで差別用語や誹謗中傷・罵倒として使う。韓国での障害者差別は酷く、人権無視の虐待が現在でも続いている。障害者を保護する法律は作られてはいるがそれは表面上だけで、実際は人身売買や強制売春の対象になっているほどで国際的にも問題になっている。 メラッ 名雪は自分の横でかすかに炎が舞い上がったような気がした。驚いて顔を向けるとそこには表情を変えないままの香里がいる。 「何? どうかした名雪?」 「ううん。何でもないよ。ちょっと気になって」 自分の気のせいだと名雪は判断し、またモニターに意識を戻す。その間にまた相手側からは新たなメッセージが投げ込まれてきた。 *韓:hse220<お前の兄弟も病身! チョッパリは遺伝子異常の劣等民族だ! ハハ〜 *韓:hse220<お前は分裂病者! お前の母親は自閉症! 「うー、お母さんのことを悪く言うのはちょっと酷いよー」 韓国人が誹謗中傷をする時にはこのように家族を障害者扱いすることが多い。裏返せば韓国では育ちより生まれが大事で、やたらに血統に拘る。これは儒教精神が根強く残っているためであろう。親兄弟の悪口を言うのは韓国では最大級の侮辱らしい。そしてそういう侮辱を日本人に対しては平気で使う。 「名雪、もうログアウトしましょう。こんなのにつき合っている義務はないわ」 「うー残念だけどそうするよ……」 香里の薦めで名雪は退出のボタンにカーソルを合わせた。しかしその時、運命の歯車は無情にも甲高い音を立てて回り始めた。破滅の一文が……書いてはならないその一言が日本海を断ち切る。 *韓:hse220<お前の妹はダウン症! プチン 何かが壮大に切れた。聞こえないはずの音が、名雪の精神にははっきりと感じられた。熱を帯びない劫火が三千世界を焼き尽くす。そんな地獄絵図が何故か名雪の脳裏に浮かび上がった。もはや熾天使率いる天界軍団を前にしても撤回せぬ不退転の決意がみなぎっている。 「名雪、ちょっと代わって」 「あの、香里、もう会話は終わるから……」 「いいからそのパソ貸しなさい」 「ちょっと落ち着いて……」 「か・わ・り・な・さ・い!」 「は、はぃぃぃぃっ!」 ほとんどひったくるようにノーパソを自分に向けると、少し前まで美坂香里だった阿修羅は全ての御手を攻撃へと向ける。名雪の速度とは比較にならないほど流麗なブラインドタッチが画面に続けざまに文字を表示していく。 *日:nayuki<二等国の分際で歪曲ばかりしないでくださいね、この下劣な犬民族。 「かかかかか香里ぃっ〜」 「何? 今、忙しいから後にして」 *日:nayuki<朝鮮人は昔から大国に事大するばかりで自国の史料すら残していなかったから、古代史は一つも残っていないはずですね。さすがは下僕の執拗低音が浸透している文明です。 名雪はもう部屋の隅で命乞いをしてブルブルガクガクと震える感じであった。 *韓:hse220<なんだとこの野郎! 我が民族は世界一優秀で、5000年間独立を保って、9000年前には中国も満州も支配していた!! *日:nayuki<それはすごいですね。1万年前の氷河期に朝鮮半島に文明があったなんて、韓国以外の国では教えていないことです。ムーやアトランティス文明に匹敵する歴史学最大の大発見ですね。どうして4大文明にその名がないのですか? *韓:hse220<日本は歪曲教科書だから教えていないだけだ! *日:nayuki<では、韓国の歴史が5000年だと書いてある外国の教科書を一つでも良いから具体的に挙げてみてください。どうせ無いでしょうけど(嘲笑)。 「香里〜そのくらいにして、もう止めようよ〜。あ、わたしの苺ジュースを上げるから。ね、ね?」 「あたしは戦争をしているのよ、名雪。あたしの一番楽しい時間をくだらん飲み物で邪魔しないで」 「お願いだからもうやめて〜。遅まきながら韓国の人との和平を……」 「ねぇ名雪……」 香里の表情はどこまでも穏やかだった。まるで早春の諏訪湖に一面に広がる氷原のように。……そして南北に亀裂の入る神事・御渡り寸前の危うさが瞳にだけ爛々と湛えられている。 「少し静かにしていてくれないかしら」 「でも〜」 「残りの学生生活を暗く陰鬱に過ごしたり、卒業後に年賀状が一枚も来なくなったりなんて、なりたくないでしょ?」 「そそそそれはどういう……」 「言葉通りよ」 殺る時は殺る女・美坂香里、親友の名雪にはそれが骨身に沁みて分かっていた。 *韓:hse220<及んだなチョッパリ! 偉大な韓国にはfantasy小説の『日本書紀』と違って『三国史記』や『三国遺事』がある! *日:nayuki<『三国史記』も『三国遺事』も12世紀に成立で、しかも原本が見つかっていません。現存しているのは、13世紀に書かれた写本だけです。阿呆の韓国人はそれも知らないのですか? *韓:hse220<ハハハ 『日本書紀』は我が国の『百済書記』を模倣したものだと分かっている! お前達の歴史は我が国の模倣だという証拠だ! *日:nayuki<プッ、それってこれのことですか? 韓国人は妄想と現実の違いが分からないという証明をしてくれてありがとうございます。 *韓:hse220<− 韓国人は本当に架空小説や反日ドラマを「証拠だ」と言い張ることがある。日本人には呆れるしかない物言いではあるが、それが彼らの標準レベルであるのだ。 『百済書記』は受験に失敗した韓国学生が憂さ晴らしのために書いた反日架空小説である。これを在韓日本大使に大威張りで送り付けるほど韓国人の認識は世界から乖離している。正常な国際常識があったら、そんなこと恥ずかしくて出来ないだろう。 *日:nayuki<『日本書紀』の成立は720年前後です。朝鮮の三流歴史書より400年以上古く、実際の百済の時代にずっと近いですね。韓国人は3桁の引き算も出来ないのですか? しかもそれが最古の歴史書? 朝鮮って日本よりずっと歴史の浅い子供の国なのですね。 *韓:hse220<韓国5000年は『桓檀古記』が証明している! どうだチョッパリ! 韓国の檀君神話は科学的調査で紀元前2300年だと分かっている! キラーン 香里の眼が残虐に満ちる。勝利を確信した強者の、そして玩具をぼてくりまわす猫の瞳である。 *日:nayuki<『桓檀古記』は20世紀に書かれた偽書です。韓国教科書はそんなものを国史としているのですか? 日本人は恥ずかしくてそんな真似出来ませんね。 *韓:hse220<なんだと! 歪曲するな! *日:nayuki<『桓檀古記』の桓は仏教の神のことです。どうして紀元前2300年に仏教の神が居るのですか? 仏教はB.C5世紀頃発生したのだし、半島への仏教伝来は早くてA.D4世紀です。半島人はタイムマシンでも発明していたのですか? *韓:hse220<君たちの日本の人々はやっぱりグゼブルヌル民族だ *日:nayuki<翻訳が乱れていますよ。自分の嘘がばれたからって慌てないでください。熊を獣姦した民族の末裔は、正しい標準語も使えないらしいですね。 *韓:hse220<『桓檀古記』を研究しているまともな学者は全て正史だと言っている! *日:nayuki<その他にも 『桓檀古記』には20世紀に書かれた本の引用がありますね。紀元前の本にどうして5000年後の本の引用があるのですか? 朝鮮人は超能力者ですか? *韓:hse220<嘘だ嘘だ嘘だ! *日:nayuki<檀君神話にはニンニクが登場していますね。ニンニクは中央アジア原産で、漢の武帝が中国に伝えたとされています。つまり半島に伝わったのは紀元前1世紀以降のはずです。どうして紀元前2300年の半島にニンニクがあるのですか? もしかしてニンニクも韓国起源なのですか? 檀君とは朝鮮民族の始祖とされている半神半人、正確には半獣人の王である。檀君神話によると、神が地上で虎と熊に会い、熊が人間の女になってその熊女との間に生まれたのが檀君である。檀君は広い土地を支配して檀君朝鮮を築いた。 韓国ではこれは虎や熊をトーテミズム的に信仰していた周囲の部族を吸収したと解釈されている。また檀君の寿命が1000年以上だったことは、“檀君というのは王の俗称で、何代にも渡って王が居た”と解釈されている。 ただし檀君のことが初めて登場するのは12世紀に書かれた『三国遺記』であり、それ以前の書物にはいっさい登場しない。本当にあったのならば中国や日本の記録にも出ているはずなのだ。 故に檀君というのは、高麗時代に蒙古の侵略に対抗するため民族の精神的支柱として創造された架空の神と歴史であるという意見が強い。 *韓:hse220<イルボンノムドルウンも捏造対局! 我が国では琵琶型銅剣が見つかっている! 檀君朝鮮の証拠だ! *日:nayuki<その銅剣が朝鮮のモノだという証拠は? 中国から輸入しただけなのかもしれませんね。それに銅剣が檀君と関係しているという証拠は? 銅剣に“檀君”という文字でも刻まれているのですか? *韓:hse220<我が国ではハングルで書かれた甲骨文字が見つかっている! 確実な証拠だ! *日:nayuki<アフォですか? 甲骨文字は紀元前15世紀の中国の殷の文字です。しかもハングルは15世紀に作られた文字ですよ。それになんて書いてあるのか解読されているのですか? そこに檀君って書いてあったのですか? *韓:hse220<殷も我が国の支配下だったの! 古朝鮮は中国も満州も支配していたの! *日:nayuki<妄想大爆発ですね。それを国際的な歴史学会に発表したらどうですか? 次の日にはあなたの名前が新聞に載りますよ。世界一の狂人としてね。あ、韓国では正常なのでしたね。これは失礼しました。プッ *韓:hse220<君たちの日本政府が隠蔽していて君逹がモルルプンだと *日:nayuki<モニターの前で真っ赤になって泣きそうになっている貴方の顔が浮かんでくるようです。キーボードを打つ手が震えていますよ(w。 *韓:hse220<日本は汚い奴! 『広開土王碑文』も日本軍が遺跡を破壊して書き換えたことが分かっている! *日:nayuki<中国の学者が『広開土王碑文』には欠損や改竄がないことを確認しています。逆に併合時代の日本学者は、遺跡の風化を防ぐために保存加工していることも調査で明らかになりましたね。中国も、韓国の日本中傷の嘘を明らかにしましたけど、何か? *韓:hse220<やっぱり日本国民たちはウメする! チョッパリはフジムラで歪曲しているくせに! 日本の民間歴史家・藤村氏の古代発掘捏造は、韓国では日本の捏造の代名詞にもなっている。確かにこれは日本人として恥ずべきであり、謙虚に反省しなければならないことでもある。しかし…… *日:nayuki<韓国国宝274号事件を説明してください。 *韓:hse220<何? *日:nayuki<韓国国宝274号事件も知らないのですか? 韓国が国家的に古代史捏造をした事件です。 *韓:hse220<嘘だ! 誇り高い我が国がそんなことするはずがない! *日:nayuki<藤村氏はただの民間歴史家。でも274号事件は、韓国海軍で発掘した遺物を韓国歴史学会が承認した。つまり韓国国家ぐるみの捏造事件ですね。それとも韓国歴史学会のレベルは捏造も見抜けないほど恐ろしく低いのですか? *韓:hse220<政府と天皇を神さまのように奉ずる民族! *日:nayuki<韓国海軍の汚職将校が引き上げた遺物を、僅か4日後に韓国歴史学会はたった30分の鑑定で国宝指定したんですってね。それって、“引き上げてから国宝指定した”のではなく、“国宝指定するために引き上げた”つまり最初から捏造国宝を作るために国家ぐるみで馬鹿馬鹿しい演技をしていたのですね *韓:hse220<チョッパリチョッパリチョッパリ! *日:nayuki<まともに答えられないからって、罵倒ですか? 朝鮮人の民度の低さが分かりますね。 こんな捏造ばかりしているから、韓国歴史学会は国際社会から相手にされないのですよ。韓国の歴史が半万年? W−Cupで元日本人の豊田大統領が世迷いごとを言っていましたけど、世界中に韓国の馬鹿さ加減を宣伝しましたね。 「ひ、ひぃぃ」 名雪蒼白。香里の細く繊細で上品な指先から紡ぎ出される調べは、どれも無限地獄の鬼ですら怯んでしまうかもしれない氷の刃であった。もしあの時香里を無理矢理制止して機嫌を損ねていたら……名雪はこんな台詞を毎日学校で浴びせかけられていたのだろう。名雪の精神力では、暗い学園生活どころか一週間も経たない内に引き籠もって社会生活が不能になってしまうだろう。 香里の指摘通り、モニターの向こうの韓国人は顔面を火のように紅潮させて意味不明の言葉を叫き散らし、涙目になりながら一心不乱にキーボードよ砕けんとばかりに乱打しているに違いない。 *日:nayuki<朝鮮と違って日本にはしっかりとした史料が大量に残っていますから、韓国のように無理矢理に歴史捏造など出来ません。歴史の無い国は勝手なことが出来て楽でいいですね。うらやましいです。 *韓:hse220<ナムッオッオ~等身よ! *日:nayuki<ああそれと、韓国人が妄想している檀君朝鮮と、箕氏朝鮮と、高麗と、衛氏朝鮮は全部違う国です。特に李氏朝鮮以外は中国人が作った国ですから、結局朝鮮人の国は李氏朝鮮の500年間だけですし、大韓民国は54年しか歴史はありませんね。 韓国では、中国の史書に古朝鮮が記されていることを根拠に檀君朝鮮は存在したと言い張っている。しかし中国史書をまともに読むと、それは中国人が建国した箕氏か衛氏朝鮮であることが分かる。韓国では中国史書を歪曲解釈してまで自分たちの自尊心を満足させているのだ。 だから韓国の古代史は中国にも相手にされていない。檀君研究は韓国だけの孤立した歴史学だ。 *韓:hse220<ナンジングチェックは君たちの日本でゼザックハンチェック当然君たちの日本に有利に記述されて隠蔽されているの! *日:nayuki<日本は万世一系の天皇家が続いていますから、皇紀では2663年、確実な歴史でも千数百年の歴史があります。現存する世界最古の王家は天皇家ですよ。知っていましたか? 朝鮮なんかの乞食とは格が違います。 *韓:hse220<そのようなものを証と言うな!!ゲックグァンゾックインズングゴルルデ *日:nayuki<韓国人必死ですね。日本の青森の太平山元遺跡では16500年前に作られた世界最古の土器が発見されています。韓国式の歴史計算を適用させると日本の歴史は16500年ですね。でも日本人は、恥知らずの韓国人とは民度が違いますから、皇紀2663年で遠慮しています。プッ *韓:hse220<『日本書紀』は200年の誤差がある! 日本書紀が捏造史料で嘘ばかり書いてあるからだ! *日:nayuki<1000年も後になって書かれたのだから皇紀元年と実際の神武天皇の時代に多少の誤差があるのは当然です。それより妄想でしかない檀君朝鮮を、さらに成立の紀元前2333年を「5000年前」と660年もサバを読んでドンブリ勘定しているのはどこの馬鹿国家の低質民族なのでしたっけ? *韓:hse220<君たちの日本でばかりトングハヌンズングゴは証拠ではない *韓:hse220<国民を汲ュ政府~ ジンシルウルアルだできなくてトドルオデは民族日本 *韓:hse220<気違い!!日本語でャCッザや!君たちの日本での資料は証拠ではない!! *韓:hse220<皆ウンペと歪曲 *韓:hse220<君たちの日本でばかり通じるものを言ったあとは他のアジア国家で叩かれて死ぬ首都あって *韓:hse220<分かることもできなくてトドルオデであり偽りをサシルインズルアルであり死に物狂いで駁するあほうな日本人 *韓:hse220<ドンモックだったの?やっぱり捏造対局君逹があわれするだけなの! もはや会話は不可能になっていた。鬱火病……それは韓国人特有の文化病としてその名を知られる心身症である。韓国心理学会はそんな別名を付けて懸命に誤魔化しているが、実のところ単なる反応性仮面鬱病と社会不適応の合併である。問題なのは、その原因が韓国政府の過剰な自国賛美と、現状の韓国があまりに乖離しているため、理想の韓国と現実のギャップに耐えきれずに精神が破綻しているだけである。 世界最優秀の民族・一度も他国を侵略したことのない平和民族・5000年間独立を保った誇らしい文化大国……そんな大嘘を小学1年生から叩き込まれているので、成人して国際情勢が理解出来るようになると混乱を来す。そしてそれまで心の支えにしていたウリナラマンセーな自尊心が瓦解し、現実世界と葛藤することになる。普通の人間は現実を認め自我の方を修正するのであるが、韓国人の多くは逆に空想の世界に逃げ込み「ウリナラは絶対正しくて、世界中の方が間違っている」と妄想して精神的安定を得る。それでも「世界の方が間違っている」と断じるのも無理が生じ、現実を認めないように意識を錯乱させたり体を変調させたりして自分自身を誤魔化す。それが火病として表面化してしまうのだ。 「ふっ、詰んだわね」 香里は満足そうに呟くと、キーボードから静かに指を離した。モニターには、nayukiが発言していないにも関わらず一人で罵倒を続けているhse220の投稿で埋め尽くされている。 そして最後には *韓:hse220<もうチョッパリには言うことなど無い! 我が国が正しいに決まっているから勝った! 勝ったんだ! クハハハハハ! という発言をした。韓国名物:一人で勝手に勝利宣言。討論に負けそうになると韓国人が必ず最後に至る結果である。パターンは“日本人に論破されそうになる→話題を逸らして誤魔化し→日本人に冷静に指摘される→罵倒して誤魔化す→それも指摘される→勝手に勝利宣言→逃げ”と大体相場が決まっていたりする。 だから香里は最後にこう加えてやった。 *日:nayuki<韓国人は全員が貴方のような低質なのですか? それとも貴方が韓国人の中でも特別に低質なのですか? 私は韓国を併合していた元宗主国民として、あなたを哀れみます。 グギャーーーー! 名雪には遠く海の向こうからそんな叫び声が聞こえたような気がした。トドメ……あまりに残酷なトドメの一撃が、電子世界に回線を通じて打ち込まれた。それっきりチャットには何も文字が浮かんでこない。嵐のようにあれほど荒れ狂っていた韓国からの発言は、完全に沈黙した。 「ふっ、おそらく今頃は、憤死寸前の呼吸困難を起こして床にのたうち回っているか、キーボードとモニターを泣き叫びながら叩き壊しているかのどちらかね。ふ……うふふふふ……」 「か、香里〜もう終わった?」 名雪が恐る恐る声をかける。動くもののない液晶表示を恍惚と眺める香里の横顔には、一方的な狩りを終えた肉食動物の満足した笑みが浮かんでいる。 「ええ。もういいわよ。ありがとう」 「あの〜その〜や、やりすぎじゃないかなーなんて……」 「そんなこと無いわよ。あたしの妹への讒言に対する報いとしては、随分と軽い程度で納めているつもりだから」 「あはは……そうなんだ〜……」 理由は無いけど、今度栞ちゃんにストロベリーアイスを賄賂……いやプレゼントしておこう……そう心に刻んだ名雪であった。 |
第一話 終わり |
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こんにちは これはNaverというポータルサイトの中にある日韓翻訳掲示板、その中でも特に激戦区である歴史板での2002年夏から今日までの間に行われた、日韓歴史の激論の半実録です。政府間の互いに牽制するだけで遅々として進まない歴史会議と違う、リアルな意見交換がここにあります。 色々な情報では韓国の変な行為が話題になっていますが、日本人は誰もが「そんなことはないだろう」「誇張されているに決まっている」と善意で判断しています。しかし実際に掲示板で話してみると……全て本当でした。いえ、より斜め上です。 もちろん正常な韓国人も多いです。しかし今回は、完全な反日韓国人との設定で討論記録を再現してみました。 こういうのを書くと「右翼」「良心が無い」とアレルギー反応を起こす人は多いと思います。しかし事実なのだから仕方ありません。あの国は日本の隣です。マスコミが恣意的に伝えない韓国のナマの意識を知ってください。日本人がいつまでも騙される時代は終わりました。 私は歴史は素人なので、間違ったところもあると思います。発見された際は、ご指摘のほどをよろしくお願いします。宛先はここです。 では。 |